職務質問③その4

2017/10/03

職務質問③その3からのつづき

始末書の文章を書き終えた私は、最後に署名をし、右手人差指で指印すると「これ、いつまで残るんですか。」と尋ねると「1年くらいだよ」と係長はたばこに火をつけました。

私が「そんなわけないでしょう。半永久的に保存でしょう」と言うと係長は「ほんとだよ」と軽くいなすように煙を吐きました。

スチール机の上の灰皿を見ながら反撃すべく、「私も吸っていいですか」とキャビンマイルドを咥えると、係長は「いいよ」と簡単に反撃を交わし、さらに何と左手を添えて風をよけ右手に持ったライターで私のキャビンマイルドに火をつけてくれました。刑事ドラマと同じです。

一人で「俳優」になった有頂天の私は「カツ丼は出ないんですか」と人差指でトントンと灰を落としながら紫煙を吐き有頂天の沸点に上り詰めました。

始末書を確認し始めた係長はゆっくり両目を私に流し「調子に乗るなよ」と下から響く声を出しました。一気に冷めた私は「すみません」と紫煙を飲み込み、法学生、実務の洗礼その3を浴びました。

すっかりびびってキャビンマイルドの火をもみ消した私を相手にしないかのように係長は普通のトーンに戻り「ちょっと待っててね」と始末書を持って取調室を出て行きました。ドアは開いたままでした。

一瞬の緊張から解放された私は、せっかくなのでドアの開いた取調室から一歩出ました。

するとカウンターの内側部分の真ん中付近でごま塩頭短髪の中年私服刑事が、自身の肩の高さ右前方に右手を伸ばして日本刀の柄を握り、左前方の左手は刀身が半分近くまで入った鞘の先端部分を握り、正に自分の目の高さ面前で日本刀を抜こうとしていました。

完全に抜ききる直前に、ごま塩刑事の視線が日本刀から数センチ外れ、7、8m先一直線に私の目を射貫きました。

※その5につづく

TOPへ戻る